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企業に所属する研究職のアウトプット練習帳

書評・読書感想雑文~ゼロ秒思考 頭がよくなる世界一シンプルなトレーニング / 赤羽雄二 / ダイヤモンド社~

 "GWはがまんのウィークです"とどこかの知事が言っていたことに感銘を受けたので,がまんして家の中でできることに取り組んでおります.趣味と実益を兼ねて一日の一食分くらいは自炊をしてみようということで食材を買い込んでみましたがなかなか使いきれません(自炊経験ナシ).見通しが甘かったようです.

 さて,今回はこちらの本をご紹介したいと思います.

ゼロ秒思考 頭がよくなる世界一シンプルなトレーニング

ゼロ秒思考 頭がよくなる世界一シンプルなトレーニング

  • 作者:赤羽 雄二
  • 発売日: 2013/12/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 このブログを書くことによる私の目的はアウトプット能力の向上です.アウトプットを上手におこなう思考のヒント,頭の整理のためのヒントを求め,この本を購入しました.

この本では,

・深く思考する(=思考の質を向上させる)

・余計な思考にとらわれない(=思考のスピードを向上させる)

ことを身に付け,課題の認識から意思決定,行動(アウトプット)までを瞬時におこなえるようになる方法論,トレーニング法を紹介しています.

著者は現状把握→課題認識→複数の解決法の立案→解決法の取捨を瞬時におこなうことをして,“ゼロ秒思考”と呼んでいます.

 

 大半の人は浅い思考や,余計な思考にとらわれてしまい,頭がもやもやした状態になっています.浅い思考のために出てきたアイデアは突っ込みどころが多いし,いざ突っ込まれても説明をすることができません.また,余計な思考にとらわれているから,考えているつもりでも答えが出ず,堂々巡りになりってしまっているために,考えがまとまらず,その結果,仕事を進めるのにとんでもない時間がかかります.

 著者は,ヒトという生き物は頭を瞬時に巡らせ,解決策とそのメリット,デメリットをいくつも思いつき,選択肢の中から最良ものを選び,行動に移すことが可能である,と述べています.では,大半の人はなぜそれができないか.それは思考力・判断力を鍛えるトレーニングを積んでいないためだ,と考えています.

 

 ゼロ秒思考を身に付けるために著者が紹介しているトレーニング法,それは“メモ書き”です.このトレーニングは一つのテーマに沿って頭の中にぼんやり浮かんでいることを短い時間の中で箇条書きにして書き出す,というもの.これをおこなうことで頭は単一のことのみに意識が向き,集中することができるとともに頭の中がすっきりします.さらに,気持ちが整理される効果もあるとのことです.

具体的なやり方としては

A4の無地の紙を用意し,横向きに置く.→右上に日にちを書く.そして真ん中にタイトルを書き,下線を引く.→タイトルに沿ったアイデア・思いを箇条書きにする.

これを一分間の中でおこないます.A4 1枚につき1件,箇条書きは4行以上です(各行はしっかり,長めに書く.単語のみはNG).

 このトレーニングを1日10枚,つまり10分(まとめて10分ではない)おこなうことで,ゼロ秒思考を身に付けることが可能であるとしています.メモ書きの内容は何でもよく,例えば“今日の仕事のTo do”や,“なぜ仕事を任されなかったのか”など仕事のことに始まり,“どうして気分が落ち着かないのか”,“今日の夕食のメニュー”といった曖昧な気持ちやちょっとした悩みまで,どのようなことでも効果があるとしています.

 本書は最序盤において,なぜ深い思考ができないか・なぜ余計なことにとらわれるのかという問題を提起し,それ以降はメモ書きのやり方・効能・活用法を述べています.200ページ弱の本ですが,サーッと読めてしまいます.なぜかというと一冊かけて同じことを言っているためです.もっと薄くできるだろ,と考える方も多いと思います.しかし裏を返せば著者のメモ書きの効果に対する自信というか信頼の表れなのかなあと思います.なので,まずは読者にメモ書きをしてもらって効果を実感してもらうために実行のハードルを下げるために手取り足取りやり方を説明しているのだと感じました.

 さて,肝心のメモ書きの効果について書かせて頂きます.私自身も実践してみました.著者が200ページかけて説明した通り,考えていることを吐き出す感覚で紙にぶつけてみました.一分間の限られた時間で自分の思ったことを書ききる,集中した時間を体感することで堂々巡りしている考えの整理や,自分はこういう理由でこういう気持ちになっていたのという気持ちの整理を実感しました.とても疲れますが,頭がフル回転している効果は大いに感じます.ただ,一分間できちんとした分を4つって中々キビしいですよこれ!せめて1分半は欲しい…!さておきこれを続けることでアウトプットできる頭になるかは正直わかりませんが,仕事で煮詰まっているときや,なーんかもやもやを感じるなあ,といったときに実践することでその時々の行動の指針がはっきりしてきそうです.

 メモ書きの効果というのは実践により体感できますが,いかんせん本書はエビデンスが紹介されていません.つまり,“なぜメモ書きにより頭がすっきりするか”ということについてメカニズムが示されていません.また著者はこの本で述べたメモ書きをアレンジして実行するのは効果がないからやめろと言っていますが,それも著者の経験から得た知見で,エビデンスはありません.200ページもかけてメモ書きの効果を述べ,丁寧に読者を“初めてのメモ書きトレーニング”にまで導いているのに,そこはなんとなく残念と感じます(あまりに手軽に始められて効果を実感するから理屈は不要ッというパワー系理論かもしれませんが.).

 ともあれ,個人的に考えてみると余計な思考にとらわれた状態,というのは無意識に脳がマルチタスクをしてしまっていることを意味し,そこでテーマを絞ったメモ書きをおこなうことにより強制的にシングルタスク状態にすることで,負荷がやわらぐために頭がすっきりする…といったメカニズムが仮説として考えられるかと.また,ぼんやり考えていることを言葉にして書き出していくことは何にせよアウトプットの練習になると思います.特に短い時間に限定する,というのは瞬間的にものを考えるトレーニングという意味で重要であると感じます.

 以前某大学の先生と酒の席でご一緒したとき,手は脳だ,手を動かすことが何よりも大事.手は脳と繋がった唯一の器官だ,と仰っていました(たしか).本書のメモ書きを著者の進めるとおりに活用するまではいかなくとも(活用法は疑問符アリ),ひとまず手を動かし続けることで私のアウトプット能力の向上,ひいては脳の活性化に繋げていければ,と思います.ワタシって仕事遅いな,考えが今一つ深められないな…などの悩みを持っておられる方は一読してみてはいかがでしょうか.